業務上の負傷、疾病で療養のために休業している間は「解雇できない」こととその例外が労働基準法で規定されていることをお話ししました。
労働基準法では使用者に「災害補償」(業務上の負傷や疾病等について使用者に補償する責任がある)が課せらています。といっても、現実的に使用者が全責任を負うことは経済面からも不可能ですよね。
「労働者災害補償保険」はその点をカバーするために存在する保険です。事業主が労災保険に加入することにより、労働基準法の「災害補償」責任を「労災保険」に代行してもらえるという仕組みです。
災害補償責任は実際は労災保険が代行してくれるため、原則として使用者が労働基準法の災害補償を行うことはありません。
ということは労働基準法の「打切補償」を支払って補償義務を免れるということも実際はないわけです。
そこで、労災保険法では、「打切補償を支払ったとものとみなす」(イコール解雇制限が解除される)という規定が設けられています。条文を確認してみましょう。
第19条
業務上負傷し、又は疾病にかかつた労働者が、当該負傷又は疾病に係る療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合又は同日後において傷病補償年金を受けることとなつた場合には、労働基準法第19条第1項の規定の適用については、当該使用者は、それぞれ、当該3年を経過した日又は傷病補償年金を受けることとなつた日において、同法第81条の規定により打切補償を支払つたものとみなす。
「打切補償を支払つたもの」とみなし、解雇が可能になるという規定です。
打切補償を支払ったとみなされるのは次の2つです。
① 療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合
② 療養の開始後3年を経過した日後において傷病補償年金を受けることとなつた場合
「3年」がポイント。労働基準法の「打切補償」が認められる時期とリンクしているので押さえておいてくださいね。
あとは、「傷病補償年金」を受けているということは「まだ治っていない」ため、本来は解雇ができない時期だなーというのも意識してください。
では、問題を解いてみましょう。
① H16年出題
休業補償給付又は休業給付の支給を受けている労働者が療養開始後3年を経過したときは、労働基準法第19条第1項の規定による解雇制限が解除される。
② オリジナル
傷病年金の支給を受けている労働者が療養開始後3年を経過したときは、労働基準法第19条第1項の規定による解雇制限が解除される。
③ H17年出題
業務上の傷病に係る療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合又は同日後において傷病補償年金を受けることとなった場合には、労働基準法第19条第1項の規定の適用については、当該使用者は、それぞれ、当該3年を経過した日又は傷病補償年金を受けることとなった日において、同法により打切補償を支払ったものとみなされる。
【解答】
① H16年出題 ×
休業補償給付受けていて療養開始後3年を経過しても解雇制限は解除されません。また「休業給付」は通勤災害の場合です。通勤災害の場合はそもそも解雇制限されません。
② オリジナル ×
「傷病年金」は通勤災害の場合です。通勤災害については使用者の補償責任はありませんので、解雇制限も適用されません。
③ H17年出題 ○
キーワードは、「療養の開始後3年」、「傷病補償年金」です。「打切補償を支払ったものとみなされる」と解雇制限が解除されます。
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