社会保険労務士合格研究室

健康保険法「損害賠償請求権」

R8-096 11.28

損害賠償請求権の代位取得と保険給付の免責

 第三者の行為によって生じた事故については、「健康保険の保険給付」と「第三者からの損害賠償」が重なる不合理を避けるため、保険者の「損害賠償請求権の代位取得」と保険給付の「免責」の制度が設けられています。

 

 条文を読んでみましょう。

法第57条 (損害賠償請求権)

保険者は、給付事由が第三者の行為によって生じた場合において、保険給付を行ったときは、その給付の価額(当該保険給付が療養の給付であるときは、当該療養の給付に要する費用の額から当該療養の給付に関し被保険者が負担しなければならない一部負担金に相当する額を控除した額。)の限度において、保険給付を受ける権利を有する者(当該給付事由が被保険者の被扶養者について生じた場合には、当該被扶養者を含む。次項において同じ。)第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する

 前項の場合において、保険給付を受ける権利を有する者が第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、保険者は、その価額の限度において、保険給付を行う責めを免れる

 

について(保険者が損害賠償請求権を代位取得する)

・保険者が保険給付を行った

  ↓

・その給付の価額の限度において、「保険給付を受ける権利を有する者」が第三者に対して有する損害賠償請求権を、保険者が代位取得する

  ↓

・保険者から第三者に対して損害賠償を請求する

 

について(保険給付の免責)

・「保険給付を受ける権利を有する者」が第三者から損害賠償を受けた

・その価額の限度において、保険者は保険給付を行う責任を免れる

 

では、過去問を解いてみましょう

①【R5年出題】

 療養の給付に係る事由又は入院時食事療養費、入院時生活療養費若しくは保険外併用療養費の支給に係る事由が第三者の行為によって生じたものであるときは、被保険者は、30日以内に、届出に係る事実並びに第三者の氏名及び住所又は居所(氏名又は住所若しくは居所が明らかでないときは、その旨)及び被害の状況を記載した届書を保険者に提出しなければならない。

 

 

 

 

 

 

【解答】

①【R5年出題】 ×

 「30日以内」ではなく「遅滞なく」です。

 療養の給付に係る事由等が第三者の行為によって生じた場合は、届出が必要です。

 療養の給付に係る事由等が第三者の行為によって生じたものであるときは、被保険者は、遅滞なく、届出に係る事実並びに第三者の氏名及び住所又は居所(氏名又は住所若しくは居所が明らかでないときは、その旨)及び被害の状況を記載した届書を保険者に提出しなければなりません。

(則第65条)

 

 

②【H28年出題】

 被保険者の被扶養者が第三者の行為により死亡し、被保険者が家族埋葬料の給付を受けるときは、保険者は、当該家族埋葬料の価額の限度において当該被保険者が当該第三者に対して有する損害賠償請求権を代位取得し、第三者に対して求償できる。

 

 

 

 

 

【解答】

②【H28年出題】 〇

 保険給付を受ける権利を有する者には、「給付事由が被保険者の被扶養者について生じた場合には、当該被扶養者を含む。」とされています。

 被保険者の被扶養者第三者の行為により死亡し、被保険者が家族埋葬料の給付を受けるときは、保険者は、当該家族埋葬料の価額の限度において当該被保険者が当該第三者に対して有する損害賠償請求権を代位取得し、第三者に対して求償できます。

 

 

 

➂【H27年出題】

 犯罪の被害を受けたことにより生じた傷病は、一般の保険事故と同様に、健康保険の保険給付の対象とされており、犯罪の被害者である被保険者は、加害者が保険者に対し損害賠償を負う旨を記した誓約書を提出しなくとも健康保険の保険給付を受けられる。

 

 

 

 

 

【解答】

➂【H27年出題】 〇

 「犯罪や自動車事故等の被害を受けたことにより生じた傷病は、医療保険各法(健康保険法、船員保険法、国民健康保険法及び高齢者の医療の確保に関する法律)において、一般の保険事故と同様に、医療保険の給付の対象とされています。

 また、犯罪の被害によるものなど、第三者の行為による傷病について医療保険の給付を行う際に、医療保険の保険者の中には、その第三者行為の加害者が保険者に対し損害賠償責任を負う旨を記した加害者の誓約書を、被害者である被保険者に提出させるところもあるようですが、この誓約書があることは、医療保険の給付を行うために必要な条件ではないことから、提出がなくとも医療保険の給付は行われます。」とされています。

(26.3.31/保保発03311号/保国発03312号/保高発033112号/)

 

 

 

④【R7年出題】

 自動車事故による被害を受けた場合の医療保険の給付と自動車損害賠償保障法に基づく自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)による給付の関係について、加害者が不明のひき逃げ等の場合や自賠責保険の補償の範囲を超える賠償義務が発生した場合には、被害者の加入する医療保険の保険者が給付を行ったとしても、その保険者は求償する相手先がないケースや結果的に求償が困難なケースが生じるので、医療保険の保険者は、求償する相手先がないことや結果的に求償が困難であることから医療保険の給付を行わない。

 

 

 

 

 

 

 

【解答】

④【R7年出題】 ×

 医療保険の保険者は、求償する相手先がないことや結果的に求償が困難であること等を理由として「医療保険の給付を行わないということはできない。」とされています。

 「自動車事故による被害を受けた場合の医療保険の給付と自賠責保険による給付の関係については、自動車事故による被害の賠償は自動車損害賠償保障法では自動車の運行供用者がその責任を負うこととしており、被害者は加害者が加入する自賠責保険によってその保険金額の限度額までの保障を受けることになっています。その際、何らかの理由により、加害者の加入する自賠責保険の保険者が保険金の支払いを行う前に、被害者の加入する医療保険の保険者から保険給付が行われた場合、医療保険の保険者はその行った給付の価額の限度において、被保険者が有する損害賠償請求権を代位取得し、加害者(又は加害者の加入する自賠責保険の保険者)に対して求償することになります。

 一方で、加害者が不明のひき逃げ等の場合や自賠責保険の補償の範囲を超える賠償義務が発生した場合には、被害者の加入する医療保険の保険者が給付を行ったとしても、その保険者は求償する相手先がないケースや結果的に求償が困難なケースが生じ得ます。このような場合であっても、偶発的に発生する予測不能な傷病に備え、被保険者等の保護を図るという医療保険制度の目的に照らし、医療保険の保険者は、求償する相手先がないことや結果的に求償が困難であること等を理由として医療保険の給付を行わないということはできません。」とされています。

(26.3.31/保保発03311号/保国発03312号/保高発033112号/)

 

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